解説記事

警備員の夜勤手当・仮眠時間の
扱いと手取り計算

2026.07.14 更新 ・ 読了 約6

施設警備員などの24時間勤務は、仮眠時間の扱いによって深夜割増・時間外の金額が大きく変わります。 仮眠時間が「労働からの完全解放」と評価されるか、それとも「手待ち時間」として労働時間に算入されるかは、 最高裁判例(大星ビル管理事件)が示した基準に沿って、勤務の実態ごとに個別に判断されます。 この記事では、24時間勤務(仮眠4時間を含む)というモデルケースで、仮眠時間の労働時間該当性によって 手取りがどう変わるかを試算します。

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警備員の24時間勤務と仮眠時間

1号業務(施設警備)などでは、始業から翌日の同時刻までの24時間拘束の勤務形態が一般的です。 この拘束時間には、完全に業務から解放される「休憩時間」のほか、仮眠室で待機する「仮眠時間」が 含まれるのが一般的です。休憩時間は労働基準法34条により労働時間に含まれませんが、仮眠時間は 「休憩」や「仮眠」という名称であっても、実態として警報対応などの義務が残っていれば話が別、 というのがこの記事の中心テーマです。

仮眠時間は労働時間になるのか―大星ビル管理事件

仮眠時間の労働時間該当性について、最高裁判所は大星ビル管理事件判決(最高裁第一小法廷 平成14年2月28日) で重要な判断基準を示しました。判旨は、労働基準法上の労働時間とは「労働者が使用者の指揮命令下に 置かれている時間」をいい、実作業に従事していない仮眠時間についても、労働契約上の役務提供が 義務付けられ、労働からの完全な解放が保障されていないと評価できる場合には、労働基準法上の 労働時間にあたる、という考え方です。仮眠室での待機中に警報や異常があれば直ちに対応する義務が ある場合は、この「指揮命令下」に置かれている状態にあたりやすいと整理されています。

なお、仮眠時間が労働時間と評価されても、当然に通常の実働時間と同じ賃金が発生するわけではなく、 契約や就業規則でどのような賃金を定めているかによって金額は異なる、という点も同判決は示しています。

手待ち時間の考え方(行政解釈・裁判例)

仮眠時間に限らず、就業規則上「休憩」とされていても、使用者の指示があれば直ちに作業に従事しなければ ならない状態(いわゆる手待ち時間)は、完全に労働から離れることが保障されていないため労働時間と 判断されるのが一般的な整理です。手待ち時間に関する古い行政解釈(昭和33年10月11日基収6286号、 本来はトラック運転手の待機に関するもの)も、場所的な拘束があり緊急対応の必要がある待機時間は 労働時間として扱われうるという考え方を示しており、警備員の仮眠時間についても同様の物差しで 個別に判断されると整理されています。実際に、警備員の仮眠時間が労働時間にあたると判断された 裁判例(千葉地裁 平成29年5月17日判決)も存在します。仮眠時間中に警報対応や巡回指示への 即応義務がどこまで課されているかは勤務先・現場ごとに実態が異なるため、「警備員の仮眠時間は 一律に労働時間である/ない」と断定することはできず、個別事情により判断が分かれる点に注意が必要です。

断続的労働の許可(41条3号)と深夜割増の関係

警備業務は労働基準法41条3号の「断続的労働」として、所轄労働基準監督署長の許可を受けることで 労働時間・休憩・休日に関する規定の適用除外となる場合があります。ただし、この許可を受けた 事業場であっても、深夜労働の割増賃金(労基法37条4項)の支払い義務は適用除外の対象に含まれない、 というのが一般的な行政解釈です。つまり、断続的労働の許可の有無にかかわらず、深夜帯 (22:00〜翌5:00)に勤務させる場合には深夜割増の支払いが必要になる、という整理です。 この記事のモデル計算は、通常の労働基準法37条の枠組み(断続的労働の許可を前提としない 一般的なケース)で試算しています。

モデルケースの条件

施設警備員(1号業務)が、始業9:00・終業翌9:00の24時間拘束勤務を月6回担当するケースを例にします。

  • 拘束時間: 24時間(休憩2時間+仮眠4時間+実労働18時間)
  • 休憩: 12:00〜13:00、18:00〜19:00の計2時間(完全に業務から解放される休憩として扱う)
  • 仮眠: 1:00〜5:00の4時間(仮眠室で待機。警報対応の要否で労働時間該当性が変わる)
  • 実労働(巡回・受付対応など): 残り18時間
  • 月給(基本給)20万円、月平均所定労働時間125時間と仮定(基礎時給1,600円)
  • 深夜帯(22:00〜翌5:00)にかかる時間: 実労働3時間(22:00〜1:00)+仮眠4時間(1:00〜5:00)の計7時間

始業から起算して労働時間が8時間を超えた部分を時間外として単純化して試算します(暦日をまたぐ 勤務の法定労働時間の考え方には行政通達による別の整理もありますが、ここでは計算のわかりやすさを 優先しています)。

パターンA:仮眠時間が労働からの完全解放と評価される場合

仮眠時間が休憩と同様に労働時間から除かれる場合、労働時間は実労働の18時間のみです。8時間を 超える10時間が時間外に該当し、そのうち深夜帯にかかる3時間(22:00〜1:00)は時間外と深夜が 重複して割増率50%、残り7時間は時間外のみで割増率25%です。仮眠4時間には賃金も割増も発生しません。

区分金額の目安
時間外のみ(基礎時給1,600円×25%×7時間)2,800円
時間外+深夜(基礎時給1,600円×50%×3時間)2,400円
仮眠4時間0円(賃金・割増とも対象外)
割増賃金合計(1回)5,200円
月6回勤務31,200円

パターンB:仮眠時間が労働時間に算入される場合

仮眠時間も指揮命令下にあると評価される場合、労働時間は実労働18時間+仮眠4時間の22時間に なります。8時間を超える14時間が時間外に該当し、うち深夜帯にかかる7時間(実労働3時間+仮眠4時間)は 時間外+深夜の重複で割増率50%、残り7時間は時間外のみで割増率25%です。さらに、これまで 無給扱いだった仮眠4時間分についても、通常の賃金(基礎時給相当額)の支払いが必要になります。

区分金額の目安
時間外のみ(基礎時給1,600円×25%×7時間)2,800円
時間外+深夜(基礎時給1,600円×50%×7時間)5,600円
仮眠4時間の基礎賃金(1,600円×4時間)6,400円
割増賃金合計(1回)14,800円
月6回勤務88,800円

差額のまとめ

パターンA(仮眠=労働時間外)とパターンB(仮眠=労働時間)を比べると、月6回勤務のモデルで88,800円 − 31,200円 = 57,600円 もの差が生じる計算です。同じ「24時間勤務・仮眠4時間」という シフトでも、仮眠時間の労働時間該当性という一点の評価の違いだけで、手取りに直結する金額が 大きく変わることがわかります。

警備員の給与水準(参考)

厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(令和5年)によると、警備員(保安職業従事者)の きまって支給する現金給与額(月額)は27万9,800円、年間賞与その他特別給与額は40万3,400円で、 年収換算はおよそ376万円です。この数値は全国の警備員(正社員)の平均であり、仮眠・深夜割増の 扱いが会社ごとに異なるため、夜勤手当そのものの一律の相場を示すものではありません。自分の 勤務先の夜勤手当・仮眠時間の扱いが平均と比べてどうかを知りたい場合は、就業規則や賃金規程で 仮眠時間の位置づけを確認することが出発点になります。

自分の勤務先ではどちらにあたるか

仮眠時間が労働時間にあたるかどうかは、就業規則の記載だけでなく、実際に警報対応・巡回指示への 即応義務がどこまで課されているかという勤務実態によって判断されます。判断に迷う場合は、 労働基準監督署や社会保険労務士、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

自分の条件で試算するには

夜勤手取り計算ツールでは、入力した勤務時間帯をもとに深夜帯・時間外を自動判定し、 月間の手取りを概算できます。ただし仮眠時間を労働時間に含めるかどうかは勤務先の 実態・就業規則により個別の判断が必要なため、仮眠時間を労働時間として入力するかどうかは ご自身の勤務実態に照らしてご判断ください。登録不要・データはお使いの端末内にのみ保存されます。

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よくある質問

警備員の仮眠時間は労働時間にあたりますか?
最高裁判例(大星ビル管理事件、平成14年2月28日)は、労働からの完全な解放が保障されておらず、警報対応など労働契約上の役務提供義務が残っている仮眠時間は労働基準法上の労働時間にあたる、という判断基準を示しました。ただし、この基準を個別の勤務にどうあてはめるかは、仮眠中に課される即応義務の内容など勤務実態によって異なるため、「警備員の仮眠時間は一律に労働時間である/ない」と断定することはできません。就業規則の記載だけでなく実際の勤務実態を踏まえ、個別に判断する必要があります。
仮眠時間が労働時間と認められると、割増賃金はどう変わりますか?
仮眠時間が労働時間に算入されると、その時間も実労働時間に合算されるため、法定労働時間(1日8時間)を超える部分には時間外割増(+25%)が、さらに深夜帯(22:00〜翌5:00)にかかる部分には深夜割増(+25%)も重複して合計+50%が加算されます。加えて、それまで無給扱いだった仮眠時間分の基礎賃金も新たに発生します。本記事のモデルケース(24時間勤務・仮眠4時間を月6回)では、この違いだけで月57,600円の差が生じる計算です。

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※ 本記事および紹介ツールの計算結果は概算であり、実際の給与は勤務先の規定によります。

※ 仮眠時間の労働時間該当性に関する記述は、最高裁判例(大星ビル管理事件)・行政解釈に基づく 一般的な整理であり、個別の勤務実態により判断が異なります。正確な判断は労働基準監督署や 弁護士・社会保険労務士等の専門家にご確認ください。